第23回研究発表大会 シンポジウム
「戦略と経営史の接点」
講演者
- 山藤 竜太郎(駒澤大学)
- 宮田 憲一(明治大学)
- 宇田 理(青山学院大学)
司会・進行
日野 健太(駒澤大学)
第23回研究発表大会において、シンポジウム「戦略と経営史の接点」が開催されました。
本シンポジウムでは、経営戦略論における経営史および歴史的アプローチの可能性について議論されました。
この課題に対して、3名の研究者がそれぞれの立場から、歴史的視点が戦略研究にどのように貢献しうるかを提起しました。
第1報告:山藤 竜太郎「経営学の時間軸と経営史」
山藤氏は戦略研究における歴史的研究の必要性を提起した。日本では歴史研究が組織論では進展している一方で、戦略論ではその動きが不十分である点を指摘する。
そのうえで、「史料批判」や「トライアギュレーション」など歴史研究の方法が、戦略研究にも有効であるであるとし、経営戦略の分析において、より堅牢な事実と多面的理解の必要性を強調した。
第2報告:宮田 憲一「経営学の時間軸と経営史」
宮田氏は戦略研究における「歴史洞察に基づくアプローチ(HiS研究)」を紹介し、歴史研究が戦略理論へもたらす可能性を具体的に提示する。
具体的な事例として、ウェスチングハウス社の企業ドメインの変遷を分析し、企業ドメインの変化は、空間・時間・意味という3つの層の相互作用によって構成され、そこには経路依存性と経路革新性の複雑な動きがあると述べた。
こうした歴史的視点は、戦略の合理性や形成過程の理解に新たな視座を与えるものであり、戦略研究に対して実質的な理論貢献が可能であると強調した。
第3報告:宇田 理「戦略当事者の認識が正しくないとき」
宇田氏は、戦略当事者や研究者がしばしば事実を誤って認識していることに着目し、歴史的プロセスの丁寧な追跡の重要性を指摘した。
ヤマト運輸やインテルの事例を取り上げ、実際の戦略とその解釈が食い違う様子を分析。
物語性や「後付けの正当化」が事実の理解を歪めるリスクがあることを示したうえで、歴史研究者が行うような「プロセスの記述」と「行為の連続性の把握」が、戦略研究にとっても不可欠であると述べた。
全体ディスカッション
3名の報告後、日野氏(駒澤大学)の司会のもと、参加者の先生たちとディスカッションが行われた。
ディスカッションでは、戦略論研究・組織論研究と経営史で時間軸の捉え方が異なる点や、CSRやダイナミック・ケイパビリティとの関連性など、多様な観点から経営史・歴史的アプローチについて議論が展開された。
3人の発表および全体ディスカッションはいずれも、戦略を時間の中でとらえる必要性を強調しており、「戦略と歴史」の融合が新たな研究の可能性を開くことを示していた。
戦略論と経営史が今後より実質的に接続されていくことが、理論の深化と実務への貢献の双方に資すると期待される。